2020年、ネクストレベルへと進化を遂げた「GORE-TEX PRO プロダクト」。“極限を征する”ために開発されたこの素材は、より高度な「頑丈さ」「透湿性」「ストレッチ性」、さらには「サステナビリティ」を実現。新たに生まれ変わった「GORE-TEX PRO プロダクト テクノロジー」が採用されたアイテムは、アウトドア体験にどのような革新をもたらすのでしょうか。この連載では、ものづくりへの徹底したこだわりを持つアウトドアブランドの担当者にインタビュー。注目の新作、そして「GORE-TEX PRO プロダクト」の魅力に迫ります。第1回はアークテリクス ブランドヘッドの高木賢さん。最高品質を追求する同ブランドから見た“GORE-TEX PRO プロダクト”とは?
意味のない世代交代はしない。
進化し続ける9世代目アルファ SV ジャケット
妥協を許さないものづくりで、世界中のクライマーから確固たる信頼を獲得しているアークテリクス。その旗艦モデル「アルファ SV ジャケット」は、アルパインクライミングなど、高山での厳しいコンディションに挑戦するためのハードシェルジャケットです。初代が登場したのは1998年で、現在は9世代目。新しい世代へと進化する際にはその都度全てを見直すなど、開発陣は並々ならぬ情熱を傾けてきたといいます。そんなアークテリクスのものづくりにおいて、一貫していること、そしてポリシーとは?
「アークテリクスのものづくりの哲学は”デザイン・フロム・スクラッチ”。自分たちの作りたいものをゼロベースから作る、という考えが根本にあります。海外のアウトドアブランドでは唯一自社工場を持っていて、他では出来ない特殊な仕様を研究開発できることも強みです。このアルファ SV ジャケットも、昔からデザインコンセプトはほぼ変わっていませんが、世代を更新するごとに全てをゼロから作り直し、都度進化させているんです」
「例えば、何の変哲もないジップひとつとっても、そこには膨大な試行錯誤があります。昔のシェルは防水性を確保するためにフラップを設けていましたが、操作性の悪さが難点でした。そこで止水ジッパーを世界で初めてYKKと共同開発して製品化したのが1998年のこと。さらに2017年には、そのスライダーを改良した『RSジッパースライダー』を開発しました。
従来の止水ジッパーではスライダー先端が閉まりきらずに隙間が出来てしまい、その隙間をカバーするためのジッパーガレージが必要でしたが、そのネガティブを払拭しました。これによってジッパーの位置も自由になり、防水性と操作性も大きく向上しました。ただ、このエピソードも氷山の一角に過ぎません。開発陣の情熱を知れば知るほど、圧倒されてしまいます」
「製品の世代を更新するなら、そこには進化させる意味がなければいけません。素材の変化はわかりやすいですが、例えば防水性を確保する為のシームテープの幅も、昔と比べるとかなり細くなっています。初代は18mm幅でしたが、現在は8mm幅を主に使用しています。細くすると製品全体での透湿性を高められますし、着心地も良く軽量化にもなります。そういった細かい進化の積み重ねが、この9世代目のアルファ SV ジャケットへと繋がっているのです」
GORE-TEX PROがもたらした
小さくても大きな変化
意味のない進化はしない。そう明言するアークテリクスが満を持してリリースした、9世代目アルファ SV ジャケット。特に重点を置いたのは、長く使える耐久性の向上だといいます。
「これまでと決定的に違うのは、首回りの作りです。人間の皮脂が生地の劣化の原因になってしまうため、以前までは補強のために首裏の生地を二重にしていましたが、新作ではこれを刷新しています。それが実現出来たのは、新しい『GORE-TEX PRO most rugged technology(モスト ラギッド テクノロジー)』のお陰です。皮脂に対しても強い構造になっているため、二重にする必要がなくなったんですね。小さな変化に思えますが、着心地には大きな影響があります」
そもそもアークテリクスはカナダのノースバンクーバーという、世界的にも降雨量の多い土地に根差したブランド。防水透湿性とその耐久性には非常に強いこだわりがあります。初代アルファ SV ジャケットに採用していた“GORE-TEX XCR”も、実はコンセプト段階から ゴア社とアークテリクスの共同開発によって生まれたものだったという経緯も。
「アークテリクスが“GORE-TEX”を信頼している最大の理由は、外部に生産委託をせず、自社で一貫生産しているところにあります。だからクオリティのブレが一切ない。防水透湿素材の要はメンブレンと生地を圧着する技術にあるわけですが、GORE-TEXは何十年も昔からトライアル&エラーを繰り返していて、相当な数のノウハウが蓄積されています。アークテリクスも自社工場を使って独自の製品の開発・製造をしており、ものづくりに対する真面目な姿勢が同じなんですよね。その感覚が似ているからこそ、信頼して“GORE-TEX”を使えるんです」
環境のためにも良いものを長く使う。
そのためにも耐久性は不可欠
アークテリクスが耐久性にこだわったのには、もう一つ大きな理由があると高木さんは言います。
「アークテリクスが非常に重要視しているのが、良いものを長く使ってもらいたいということ。そのために、耐久性の高いタイムレスな製品を作り続けてきました。デザインが気に入らなくなったり壊れたりしてしまって2年で買い換えるよりも、5年、6年持つものをメンテナンスしながら使う方がコストパフォーマンスも高いし、環境負荷も低いですから」
メーカーとしてビジネスだけを考えれば、たくさん買ってもらえる方が良いのは当たり前。また、話題性だけを狙って世界最軽量のシェルジャケットを作るということも技術的には可能だと言います。しかし、アークテリクスはそれを良しとしません。
「アークテリクスの製品は高価ではありますが、長く使えます。でもだからこそ、世代を跨いでもデザインコンセプトだけはほぼ変えていません。ジャケットを買った数年後にパンツを買っても違和感なくコーディネート出来るようにするためです。そういった意味でも耐久性は大切。よりタフになった『GORE-TEX PRO most rugged technology』を採用したことによる恩恵は、想像以上に大きいと思います」
双方がものづくりに対する真摯な姿勢を持ち、互いに良い関係を築いているアークテリクスと“GORE-TEX”。今後はよりサステナビリティに配慮した素材を開発するため、本国ではすでにさまざまな情報共有が行われているそう。今後のさらなる進化に期待が高まります。