現在世界中で提唱されている、持続可能な社会を目指す「SDGs」や「サステナビリティ」。自然との関係も深いアウトドアブランドは、早くからそうしたことへの活動を続けてきたことでも知られ、環境に考慮した素材選びはもちろん、リペアサービスなども各社積極的に展開しています。
そうしたアウトドアブランドのなかでも、機能性とデザインを高度に融合したものづくりで世界中のファンから支持される「ザ・ノース・フェイス」は、サステナビリティや環境負荷軽減といった課題に率先して取り組み、先導してきたブランドのひとつです。今回は、ザ・ノース・フェイスの日本展開を担う株式会社ゴールドウインの富山県小矢部市にある「ゴールドウインリペアセンター(以下:リペアセンター)」にうかがい、ザ・ノース・フェイスが行っているリペアサービスについて聞くとともに、ブランドが考えるサステナビリティのマインドや今後の展望について取材しました。
全国から集まった破損、機能損失のアイテムを、
できるだけ元の姿に修理・修復する
今回お話を伺ったのは、株式会社ゴールドウイン事業本部でザ・ノース・フェイスの事業運営・企画を担当する丸毛圭二さん(写真左)と、同社商品本部生産技術部にてリペア・オペレーションチームに所属する澤田昂一さん(写真右)のおふたり。
ザ・ノース・フェイスは、1966年に米・サンフランシスコで創業。創業当時より革新的な技術や表現を積極的に取り入れたアイテムを展開し、アスリートはもとよりファッションシーンにおいても多くのファンに愛され続けてきました。その一方、「優れた製品とは使い勝手が良く、長く使えるものであるべき。そしてそれが自然環境保護になる」というポリシーを掲げ、設立当初から自社製品に生涯保証を取り入れたリペアサービスを実施しています。
ザ・ノース・フェイスを1979年から日本で展開する株式会社ゴールドウインは、同社発祥の地である富山県小矢部市に「リペアセンター」を設立。ここには全国の直営店やウェブストアで受諾されたリペア対象アイテムが集められ、高い技術によって修理・修復が行われています。
「ザ・ノース・フェイスでは、もともと“ロングライフ”というキーワードを大切にしてきました。ですから製品のデザインも、時代やトレンドが変ってもずっと着られるものを意識していますし、長く使っていくなかで壊れたり劣化した際にはリペアできる環境を整えています。ご購入いただいたものを長く使っていただくということに、ザ・ノース・フェイスでは特にこだわっています」(丸毛さん)
「2021年には約1万7000件のアイテムをリペアしました。環境への負荷を考慮するとリペアは大事なサービスだと思いますし、何よりもお客さまが思い入れのあるアイテムと、できる限り長く付き合っていける環境を整えておきたい。そうした思いも込められています」(澤田さん)
アイテムをより長く使ってもらう。そのためリペアセンターでは、基本的にすべての製品の幅広い症状に対応すべく、あらゆる生地やパーツがそろえられていると、澤田さん。
「靴下などの一部消耗品を除き、基本は全ラインの全商品をリペアすることができます。古いモデルでも、正規品であればリペアをお受けしています。リペアセンターに同じ素材やパーツがなくても、歴代の素材やパーツのなかから近いものを使って対応できていますし、穴などを当て布で補修する際も、極力もとの形状に戻すようにしています。劣化したロゴのプリントだって、しっかりと復元できるんですよ」
素材と症状を的確に見極めながら機能面においても可能な限り修復するため、リペアセンターの評価はユーザーの間で非常に高く、沢山の感謝の声も届いているようです。
「実際にザ・ノース・フェイスのファンの方とお話する機会などもあり、ファンになったきっかけがリペアだという方もいらっしゃいました。そういったお客さまの声は、このリペアセンター内でも掲示板に貼るなどして(写真上)シェアさせていただいていて、それがスタッフたちのモチベーションにも繋がっているんです」(丸毛さん)
製品のロングライフはリペアだけに頼らず、
日々のメンテナンスも要に
リペアセンターには、GORE-TEX ファブリクスを採用したレインウェアやシェルも多く持ち込まれており、澤田さんいわくその修理依頼の多くがシームテープの剥がれや生地の穴あきなのだそう。
「一部、特殊な機械などが必要なものはパートナー企業さんにお願いすることもありますが、シームテープの貼り直しなどはここで対応しています。GORE-TEX ファブリクスって、防水透湿性が高いだけでなく、実は丈夫で長持ちするという特徴もあります。ただ、皮脂などが付着することでシームテープの劣化などはどうしても避けられないんですね。解決策は、アイテムを“洗う”こと。つまり、日々のメンテナンスをすればリペアに頼らず、より長く付き合うこともできるんですよ」
さらに、どんなアイテムでもリペアできるよう常に準備はしているものの、ユーザー自身によるアイテムのメンテナンスの重要性も、もっと積極的に発信していかなければならないと、丸毛さん。
「特にGORE-TEX製品は、きちんとメンテナンスすることで正しい機能を常に発揮することができて、より長く使えるようになるもの。結果としてリペアにかかる費用も抑えられますし、環境への配慮にもつながるわけです。そうしたメッセージを、ご購入いただく時点でお客さまにしっかりと伝えていかなければなりません。今後も徹底して注力していきたいポイントです」
GORE-TEX製品は機能をベストなコンディションで維持するためにも、日々のメンテナンスが重要。長きにわたりGORE-TEX プロダクトテクノロジーを取り入れた製品を世に送り出し続けてきたザ・ノース・フェイスだからこそのアドバイスです。さらに、丸毛さんはこんなことも語ってくれました。
「私たちはこれまでにGORE-TEX プロダクトテクノロジーを取り入れたアイテムを多数手がけてきましたが、そのテクノロジーは日々進化していますし、メンブレン自体のサステナブル化も進んでいます。そういう意味でも、ザ・ノース・フェイスも同じ方向を向きながら、これからも一緒にチャレンジしていければと思っています」
会社組織として取り組む、様々なサステナビリティ
ここまで、ザ・ノース・フェイス、ゴールドウインで行っているリペアサービスについて、様々な角度からお話を伺いましたが、同社ではそのほかにも、環境負荷軽減を目指した活動を行っていると丸毛さんは続けます。
「いまの世の中の気運もありますが、環境負荷軽減という部分ではザ・ノース・フェイスはもちろん、ゴールドウインという会社自体が、高い意識で取り組めていると思います。私個人としても、もうペットボトル飲料は3〜4年は買っていませんし、会社内ではペットボトルでの販売はすべてなくし、社員はマイボトルを使うようになっています。また、協賛するトレイルレースやロードレースでも提供する水のペットボトルを無くす活動をするなど、できるだけプラスチックレスを目指しています」
サステナビリティやSDGsが叫ばれるなかで、アパレル業界でも生産時の環境負荷を軽減させることへの取り組みは今や常識となりつつありますが、ゴールドウインはスタッフひとりひとりのレベルでも高い意識を持っていることが分かります。さらに、2019年にはスパイバー社と共同開発した構造タンパク質「ブリュード・プロテイン」による生地を使用したウェアを発表。アフターメンテナンスだけでなく、起点となる生産の分野でも各アウトドアブランドの先頭に立ち、先の世界を見据えた活動を続けていると、澤田さん。
「ゴールドウインでは、各ブランドのキッズ製品において、お客様から買い取らせていただいた製品を必要に応じてリペアやリメイクをして再販売するサステナブル・レーベル『グリーン バトン』もはじまりました。リペアの件数もここ5年ほどで急激に増えてきていますし、お客さまにもそうした環境への意識が芽生えてきているように感じられます」
「世の中がこれだけ環境問題を意識するようになってきたことで、良いものを長く使うという流れは確実にあると思いますし、私たちが行っているリペアも、もっと窓口を増やして行かなければいけません。生産面に関しても、ブリュード・プロテインを使ったアイテムを量産化できることを目指したいですし、その上で、アイテムを問わずに循環(リサイクルして再利用)できるようしていくことが今後の目標なんです」(澤田さん)
ザ・ノース・フェイスはこのほかにも、ブランドや企業の垣根を越えた「リサイクル」をテーマにしたコラボレーションイベントを展開するなど、アウトドア業界全体としての様々な試みを続けています。
ブランドの基盤となっている“ロングライフ”を実践するため、リペアサービスや、環境負担を軽減する多様な活動を続けているザ・ノース・フェイス、そしてゴールドウイン。サステナビリティの意識を常に先導している同社の展開からは、今後も目が離せません。
▼THE NORTH FACE Repair Center
https://www.goldwin.co.jp/tnf/special/repair-center/