国内では数少ない国際山岳ガイドであり、国内最高峰のトレイルラニングレース「ウルトラトレイル・マウントフジ」の安全管理ディレクターも務める長岡健一さんは、THE NORTH FACEからのサポートを受けるアスリートという顔も持つ。長年にわたり同社製品のテスト・開発アドバイスにも関わってきたなか、「GORE-TEX SHAKEDRY™ プロダクトテクノロジー」(以下、ゴアテックス シェイクドライ™)を採用するハイパーエアーGTXフーディにも強い思い入れがあるといいます。長岡さんの山への熱い思いが具現化したこのようなアイテムのディテールについて、語っていただきました。
収納力よりも通気性を優先。
片手で開閉できるベンチレーション
極めてシンプルなハイパーエアーGTXフーディにおいて、最も特徴的ともいえるのが、胸部分のジップライン。一見ポケットにも見えますが、実はベンチレーションになっています。
「一般的にベンチレーションは脇の下についている事が多いのですが、それだけは絶対にダメだと開発陣に強く訴えました。理由は明確で、脇の下にあっても片手で開閉しにくいからです。その点、両胸の部分にあれば走りながらでも簡単に開閉できますし、風もしっかりと取り入れることができるんです」
また、このベンチレーションをメッシュポケット化するという案も上がったなか、長岡さんは「ベンチレーションの効果が薄まる」と一蹴。とにかく無駄なモノは一切付けないという強い信念が、このシンプルなディテールを生んだのです。
タイトで長い袖口には意味がある。
熱を逃がさない工夫を満載
防水シェルは雨風を防ぎ、内側をドライに保つということ以外にも重要な役割があります。それは、身体の熱を逃がさないということ。そのための袖口の構造の大切さを、長岡さんが教えてくれました。
「熱というのは、袖や裾の隙間から思っている以上に逃げてしまうものです。どんなに温かいウェアを内部に着ていても、アウターの袖や裾がしっかり絞れていなければ意味を成しません。逆に、身体が熱くなったときには解放してあげるのもひとつの手。ドローコードにもベンチレーションの役割があるんです」
フィット感を高めるために得にこだわったのが、袖口。まずシャーリング(ゴム)を入れてタイトなフィット感にしたことに加え、袖丈を長めに設定。走る姿勢を取ったときには、肘が張り少し袖が引っ張られますが、それも考慮した長さになっています。
「ゴアテックス シェイクドライ™」だからこそ
究極の作り込みが生きてくる
「シェイクドライという優れた素材を使うのだから、それに相応しい、本当に機能性の高いウェアをつくらなければならない」
試作品をテストしながら、長岡さんはそう考えていたと言います。
「せっかくここまで軽量な素材なのだから、余計な機能を追加して重くしてしまっては本末転倒。しかし、トレイルランニングにおいて最低限必要な機能というのもあります。例えば、軽さを求めるなら背中の小さなバックポケットはない方がいいですが、ヨーロッパのレースでよく使われるチケットを収納したいという需要があるため、このポケットだけは付けた方がいいと思っています」
“本当に必要な機能は何なのか”その見極めには苦心したといいますが、結果として目指していた究極のウェアを完成させることができました。
「同じことを中途半端な素材でやって作っても、良いものはできません。素材が究極だからこそ、ディテールも突き詰めていくことができるし、突き詰めただけの効果が表れるのだと思います。“プロ仕様”っていうのは、そういうものなんです」
長岡健一さん
20代より登山を始め、谷川岳や穂高岳、剱岳などのアルパインクライミングを中心に、フリークライミング、アイスクライミング、バックカントリースキーなど様々な分野に精通。その経験を生かし、山岳救助やレスキューのプロとしても活躍する。また、数多くの山岳会や国立登山研修所の救助及び登山技術の講師としても招かれ、安全で感動のある山登りの魅力を伝えている。著書に『山のリスクに向き合うために 登山におけるリスクマネジメントの理論と実践』(東京新聞出版局)がある。